カウンセリング、心理療法ではどんなことをするのか?

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カウンセリング、心理療法ではどんなことをするのか? 
           〜パニック障害を例とした具体的な進め方〜

                     

 カウンセリングというと一般には悩みや問題について話し合うという印象を持たれるようです。
 私達は、それも重視しますが、さらに症状や問題の改善のために多くの臨床心理学的技法も活用しています。それを心理療法(サイコセラピー)とも呼んでいますが、どんなことをするのか、今一つわかりにくいという声も聞きます。
 そんな声にお答えして、今回はパニック障害を例として、心理療法の具体的な進め方を紹介しましょう。

 プライバシーの保全のため、一部事実関係を変更しています。

インテーク(事前の相談)面接

 来所されたAさん(45才)にご相談内容を話していただきました。
 Aさんは5年前に電車の中で突然の不安感に襲われました。心臓がドキドキし、呼吸が早くなり吐き気がしてきて、すぐ次の駅で降り、タクシーで家に戻りました。その日以来、特急電車のように乗車時間の長い電車には乗れなくなりました。
 心療内科でパニック障害との診断を受け、薬を処方してもらい、併行して通った相談室で自律訓練法(自己催眠法の一種)の指導も受けました。それで最悪の状態は脱しましたが、未だに普通電車にしか乗れません。普通電車でもしばしば調子が悪くなることがありました。
 このたびは、今までと違う方法に活路を求めてアイ・アンド・ユーにいらっしゃったとのことでした。
 Aさんとの話し合いの結果、12回通っていただくことにしました。

1回目の面接

 Aさんは、自律訓練法ではない方法を希望されたので、現代臨床催眠の技法をいくつか試してもらい、手の無意識的な動きを活用して、深い安らぎに入っていく方法を選んでもらいました。
 まず、右手で左手を押さえてもらい、左手は上げようとし、右手はそれを止めるようにしてもらいました。1分間ほどこの左右の手が押し合う状態を作っておいた後、右手を離してもらいました。ここでAさんに左手にどんな感じがあるか聞くと、上がっていきそうな感じがすると答えてくれました。
 ついで、次のような語りかけによりAさんの手が無意識的に上がり、深い安らぎに入っていけるように導きました。(実際の長い語りかけの一部だけをかなり省略して載せてあります。)

 「左手がどうなっていくのか、何となく注意を向けておきましょう・・・そう、少し動き始めました・・・上がり始めました。・・・上がっていくのをながめておくことができます。・・・ながめている間に目が自然に閉じてしまうかもしれません・・・閉じた時には、閉じたままにしておいてよいのです。・・・
 意識の心が手を上げようと思っていた時のことを、無意識の心は覚えています。・・・そのため、意識の心がもう手を上げようと思わなくなっても、無意識の心は手を上げようとします。・・・手はどこまで上がっていけるのでしょう。肩の高さくらいまででしょうか。・・・顔まででしょうか。・・・(Aさんの腕と目に生じている反応を慎重にていねいに指摘していきました。すると、Aさんは目のまばたきが多くなり閉じました。)
 今、目を自然に閉じさせてくれた無意識の心は、手を肩の高さまで挙げて止めてくれています。・・・意識の心の活動も止めてくれるかもしれません。・・・そうすると、深い安らぎが訪れます。・・・
 深い安らぎの中で無意識の心にゆだねることを学びます。・・・<無意識の心のままに>と念じると意識の心は、いつでも今の状態に戻ってくることができます。・・・深い安らぎを手にいれることができます。・・・
 手に入れると、今度は手が下がっていくかもしれません。・・・下がり始めました。・・・下がる間に<無意識の心のままに>と念じると、この言葉と深い安らぎを一層結び付けることができます。・・・
 下がっている手が足までついたあと、好きなだけその安らぎを楽しみます。・・・そして目を開けてもよいと思えた時に、伸びをして深呼吸を行い、すっきり爽やかな気分で目を開けます。」

 Aさんに感想を聞くと、自律訓練法で感じたリラックス感の何倍も深くリラックスして安らいだ感じを味わったとおっしゃいました。

 この後、彼に、不安がもともとは警告信号の役目があったり、心身を引き締める効能があったことを説明しました。防犯ベルや火災報知器にもたとえました。
 最初は必要性もあった不安が、必要無くなっても続く現象は、先ほどの手が上がっていった体験と結びつけて理解してもらいました。すなわち、警告信号や心身引き締めの必要性がなくなっても、無意識の心が不安を起こし続けるのは、手をあげる意図がなくなっても、無意識の心が手を上げさせたのと同じと説明しました。
 そして、手を上げさせた無意識の心が、ある時点から手を下げさせてくれたのと同様に、無意識の心は、不安も鎮めてくれるようになると言いました。そして、無意識の心に早く不安を鎮めてもらうため、<無意識の心のままに>と念じてみることをお願いしておきました。

2回目〜5回目の面接

 このような面接を数回受けた後、Aさんは電車の中で調子が悪くなった時に<無意識の心のままに>と小声で繰り返したみたら、気分的に楽になったと報告してくれました。
 しかし、身体的には過呼吸傾向がおさまらず、それが気になると話されました。

6回目の面接

 過呼吸に対しては、一般的には腹式呼吸などの呼吸のトレーニングは避けるようにしています。しかしAさんの呼吸パターンを注意深く観察させていただき、呼吸の訓練を導入しても大丈夫だと判断しました。そこでAさんに次のように伝えました。
 「動物は、危険を察知すると、そこから逃げるか、敵と戦ったり、置かれている状況に対処するため、活動のエネルギーを作り出します。呼吸を早くして、その酸素を体内に取り入れ、心臓の鼓動を早くして、その酸素を体中の組織に運びます。そこで栄養分を分解することにより、エネルギーを作ります。
 だから、呼吸が早くなったり、心臓がドキドキしたりするのはAさんを守ろうとして体が行ってくれている反応です。この守ろうとしている反応を積極的に利用することもできます。たとえば、呼吸をあえて早く行い、心身を心地よい状態に変化させる方法があります。私も一諸に行うので試してみませんか。」
 このように言い、私は最初Aさんの普通の呼吸にペースを合わせておきました。それから徐々に早いペースにあえて変えていくと、彼もついてきてくれました。最後に相当早くて大きな呼吸にして1分間続けて、それから息を吸ったままでしばらく止めておいたあと、吐き出しました。そして次のように語りかけました。
「今、体に独特の感じがあるのに気づいておられるでしょうか。ジーンとしびれるような感じと言う人が多いのですが、別の感じに気づいておられるかもしれません。・・・・
 その感じに注意を向けていると、スポーツをしたあとの爽快感や開放感を思い出せるかもしれません。それとはまた違った気分を思い出せるかもしれません。・・・
さらに、意識の心が、あるがままの呼吸に気づいてみると、無意識の心は、より心地よい状態をもたらすことができます。今、「無意識の心のままに」という言葉を念じると、どの程度心も体も安らいでいけるでしょうか・・・・
 そして、意識の心が無意識の心に呼吸の状態を任せておく時、無意識の心は、呼吸に新しい意味やイメージを結びつけることができます・・・意識の心は、それがどのようなものなのかは知らないでしょう。しかし今までとは違うということは知ることができるでしょう。」
 このような働きかけにより、過呼吸を恐れることが過呼吸を引き起こすという悪循環を断つようにしました。これは、認知行動療法で重視される認知の再構成を現代臨床催眠の技法を活用して行ったとものです。
 Aさんは、最初は早く呼吸することに躊躇があったが、カウンセラーも一所懸命に早く呼吸をしてくれているので、やってみることができたと述べてくれました。そして「無意識の心のままに」という言葉の効果も前より大きくなったきがします、と微笑まれました。
    

7回目から12回目の面接

 同様の面接を重ねたあと、過呼吸傾向はましになったが、心臓の鼓動や、今まであまり気にしていなかった胃部不快感が気になると訴えられました。
 私は、今まで以上に身体的方面からの働きかけも取り入れた方がよいと考えました。電車に乗っていて調子が悪くなった時のことを詳細に思い出してもらい、肩や背中に触れてみました。緊張があるのがわかったので私はAさんの肩や背中をそらしました。Aさんには、その状態で私の加えている力に任せきって脱力するという練習をしてもらいました。「お任せ脱力」といわれ、臨床動作法と呼ばれる心理療法の技法の1つです。
 何度か「お任せ脱力」を練習してもらい、次いで自分で肩と背中をそらした状態で脱力していく練習を行いました。そのあと、手の動きを活用して催眠状態に入る方法を復習していただいてから、肩と背中の脱力を無意識的に維持できるようにしました。
 さらにこのあとの面接では、臨床動作法に加えて、エネルギー心理学的方法も適用しました。これは体の
特定のポイントを指で軽く叩くこと(タッピング)により、心身の不快感を軽減する方法で、最近アメリカなどで注目されています。

 このように、現代臨床催眠認知行動療法臨床動作法エネルギー心理学的方法を組み合わせることにより、パニック発作に関連する心身の症状は完全に改善し、Aさんは5年ぶりに特急電車に乗れるようになりました。

 Aさん以外のパニック障害のかたの心理療法の進み方は、この例とはかなり違った展開になることも多いです。それは来所された方、お一人お一人に合ったオーダーメイドの方法を工夫していくのが、アイ・アンド・ユーの特色だからです。

 *不安・パニック障害 *不安の薬物療法と心理療法

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