Aさんは、自律訓練法ではない方法を希望されたので、現代臨床催眠の技法をいくつか試してもらい、手の無意識的な動きを活用して、深い安らぎに入っていく方法を選んでもらいました。
まず、右手で左手を押さえてもらい、左手は上げようとし、右手はそれを止めるようにしてもらいました。1分間ほどこの左右の手が押し合う状態を作っておいた後、右手を離してもらいました。ここでAさんに左手にどんな感じがあるか聞くと、上がっていきそうな感じがすると答えてくれました。
ついで、次のような語りかけによりAさんの手が無意識的に上がり、深い安らぎに入っていけるように導きました。(実際の長い語りかけの一部だけをかなり省略して載せてあります。)
「左手がどうなっていくのか、何となく注意を向けておきましょう・・・そう、少し動き始めました・・・上がり始めました。・・・上がっていくのをながめておくことができます。・・・ながめている間に目が自然に閉じてしまうかもしれません・・・閉じた時には、閉じたままにしておいてよいのです。・・・
意識の心が手を上げようと思っていた時のことを、無意識の心は覚えています。・・・そのため、意識の心がもう手を上げようと思わなくなっても、無意識の心は手を上げようとします。・・・手はどこまで上がっていけるのでしょう。肩の高さくらいまででしょうか。・・・顔まででしょうか。・・・(Aさんの腕と目に生じている反応を慎重にていねいに指摘していきました。すると、Aさんは目のまばたきが多くなり閉じました。)
今、目を自然に閉じさせてくれた無意識の心は、手を肩の高さまで挙げて止めてくれています。・・・意識の心の活動も止めてくれるかもしれません。・・・そうすると、深い安らぎが訪れます。・・・
深い安らぎの中で無意識の心にゆだねることを学びます。・・・<無意識の心のままに>と念じると意識の心は、いつでも今の状態に戻ってくることができます。・・・深い安らぎを手にいれることができます。・・・
手に入れると、今度は手が下がっていくかもしれません。・・・下がり始めました。・・・下がる間に<無意識の心のままに>と念じると、この言葉と深い安らぎを一層結び付けることができます。・・・
下がっている手が足までついたあと、好きなだけその安らぎを楽しみます。・・・そして目を開けてもよいと思えた時に、伸びをして深呼吸を行い、すっきり爽やかな気分で目を開けます。」
Aさんに感想を聞くと、自律訓練法で感じたリラックス感の何倍も深くリラックスして安らいだ感じを味わったとおっしゃいました。
この後、彼に、不安がもともとは警告信号の役目があったり、心身を引き締める効能があったことを説明しました。防犯ベルや火災報知器にもたとえました。
最初は必要性もあった不安が、必要無くなっても続く現象は、先ほどの手が上がっていった体験と結びつけて理解してもらいました。すなわち、警告信号や心身引き締めの必要性がなくなっても、無意識の心が不安を起こし続けるのは、手をあげる意図がなくなっても、無意識の心が手を上げさせたのと同じと説明しました。
そして、手を上げさせた無意識の心が、ある時点から手を下げさせてくれたのと同様に、無意識の心は、不安も鎮めてくれるようになると言いました。そして、無意識の心に早く不安を鎮めてもらうため、<無意識の心のままに>と念じてみることをお願いしておきました。
|