不安、うつ、あがり、緊張の認知行動療法とマインドフルネス瞑想【アイ・アンド・ユー】

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不安、うつ、あがり、緊張の認知行動療法とマインドフルネス瞑想

         

不安、うつ、あがり、緊張と認知行動療法

 不安うつあがり緊張はアイ・アンド・ユーに来られる方がよく訴えられる問題です。これらの改善のために私達は、いろいろな臨床心理学的技法を用います。各種技法の中で、最も科学的と言われているのは認知行動療法です。
 科学的と言われるのは、次のような研究論文が認知行動療法の分野には多いからです。不安うつあがり緊張、その他の症状について行動や認知(考え方)を変える認知行動療法の技法を実施したグループ(実施群)と何もしないグループ(対照群)を比較します。そして、不安うつあがり緊張の改善の程度について統計的に検討し、技法の有効性が認められるかどうかを判定します。
 有効性が認められた技法のみを今後も不安うつあがり緊張の改善に適用していこうというのが認知行動療法の立場です。
 医学でも特定の病気に対してどんな治療法を適用するか決定するときに、勘や経験に頼るのではなく、有効性についての研究に基づくべきであるとの立場があります。それはEBM(Evidence Based Medicine,根拠に基づいた医学)と呼ばれています。
 認知行動療法など過去の研究で有効性が裏付けられた技法を使っていこうとする心理療法もEBMにならって、EBP(Evidence Based Psychotherapy,根拠に基づいた心理療法)と呼ばれることがあります。

 他方、スピリチュアル心理療法は、EBPから最も離れた心理療法と言えます。スピリチュアリティ(霊性)という概念が研究の俎上にあげにくいからです。
 しかし、スピリチュアル心理療法の中の技法である瞑想については、不安うつあがり緊張をはじめとした、各種ストレス反応に有効であるとの研究があります。これは、TM(Transcendental Meditation 超越瞑想)などの瞑想法がアメリカではやった1970〜80年代にロバート・キース・ワレス(Robert Keith Wallace,邦訳書『瞑想の生理学』) 、ハーバート・ベンソン(Herbert Benson,邦訳書『リラクセーション反応』)などの研究者が精力的にその効果を研究したからです。
 とはいえ、EBPである認知行動療法のなかでは、技法として瞑想が重要視されることはありませんでした。そんな中でここ10年ほどで認知行動療法の新しい潮流(第3世代の認知行動療法とよばれることがあります)が勃興してきました。弁証法的行動療法(邦訳書『弁証法的行動療法実践マニュアル』など)、マインドフルネス認知療法(邦訳書『マインドフルネス認知療法』など)、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT,解説書『アクセプタンス&コミットメント・セラピーの文脈』など)です。
 それらにおいてはマインドフルネス瞑想と言われる技法が極めて重視されています。マインドフルネス瞑想はタイ、ミャンマー、スリランカ、ベトナムなどの東南アジアの仏教僧達が2000年も前から行ってきた瞑想法に起源を持ちます。

    

不安、うつ、あがり、緊張とマインドフルネス瞑想

 マインドフルネス(mindfulness)とは「良く気を配ること」という意味です。動作、呼吸、想念などを、判断や評価をまじえず、観察し続ける瞑想法をマインドフルネス瞑想と呼びます。
 ベトナムの仏教僧で、アメリカ、フランスなどで平和運動を展開しつつ瞑想を教えたティク・ナット・ハン(邦訳『禅への鍵』など)はマインドフルネスという言葉を良く使いました。ちなみにティク・ナット・ハンはノーベル平和賞の候補にもなりました。
 ティク・ナット・ハンが広めた瞑想法が、心理学者達に注目されるようになり、東南アジアの上座部仏教(ブッタの時代の仏教を比較的忠実に伝えている派閥)に伝わる瞑想法全般に関心が集まるようになりました。そして、認知行動療法にも、そのような瞑想法が取り入れられるようになったのです。
 仏教は、インドから東方に広まっていく時、大きく2つの経路をたどりました。チベット、ネパールなどユーラシア大陸中部を通って伝わった南伝仏教と言われるものと、東南アジアを通って伝わった北伝仏教(上座部仏教)です。

南伝仏教の瞑想は、イメージを多用します。心理療法でいうと、臨床催眠療法NLPの各種技法の中でイメージを用いるものと類似した面があります。
 他方、北伝仏教の瞑想は、今この瞬間の自分の状態に気づくことを重視します。
 ティク・ナット・ハンの広めた瞑想法やヴィパッサナ瞑想と呼ばれるものがこれに相当します。認知行動療法に取り入れられたマインドフルネス瞑想は、その現代版といえます。
 このような気づきを重視する瞑想が不安うつあがり緊張、その他の悩みの解決に役立つことは、古くから知られていました。最近、次のような体験談も出版されました。
 カンボン・トーンブンヌム著『気づきの瞑想で得た苦しまない生き方
 この本の著者はタイの体育教師でしたが、水泳の飛び込み実習中の事故から全身麻痺状態になってしまいます。ほとんど寝たきりで過ごすしかない苦しみのなかで瞑想に出合います。

 そして瞑想を通じて、悩みを乗り越え、心の安らぎを得て、現在は後進の指導にもあたっておられます。

不安、うつ、あがり、緊張の改善になぜ有効か?

 認知行動療法の研究者達は、前述のように、効果判定の研究を重視します。マインドフルネス瞑想が、不安うつあがり緊張の改善に有効であることを実証し、なぜ有効なのかを探求した研究は、徐々に増えてきています。

 先に述べたベンソン達の瞑想の効果についての初期の研究では、集中に焦点を当てたタイプの瞑想法を扱っています。そのような瞑想法では、1つの対象に注意深く集中し続けることに習熟すれば、深いリラクセーションが得られ、不安うつあがり緊張が軽減することがわかりました。

 他方、マインドフルネス瞑想は、集中→リラクセーション型瞑想ではなく、洞察型瞑想です。すなわち体験されるあらゆることに注意を向けつつも、いっさいの解釈や判断をしないで、注意深く探ってみるという瞑想法です。
 このタイプの瞑想法についての研究によれば、「脱中心化」(脱同一化ともよばれます)という態度が身に付くことが、不安うつあがり緊張軽減に役立っていることがわかりました。「脱中心化」とは、不安うつあがり緊張というネガティブな感情が、現実の事態を適切に反映したものではなく、また自己の中心的側面でもないと気づくことです。いわば不安うつあがり緊張に飲み込まれずに、距離をとれるようになるということです。

 従来の認知行動療法では、不安うつあがり緊張が生じてきている時の思考の内容を吟味し、それを適切に修正することで、不安うつあがり緊張を軽くしようとします。確かにこれが功を奏することがあります。しかし、認知行動療法の実施中に思考の内容があまり変化していないにもかかわらず、効果があがる場合があることがわかってきました。そのような場合には思考の吟味の過程で「脱中心化」が不安うつあがり緊張を軽減しているのではないかと推察されました。

 そこで「脱中心化」という態度を身につける技法として、マインドフルネス瞑想が注目されるようになったのです。上座部仏教の瞑想法を指導する僧侶達は「『悩む人』から『悩みを観察する人』になりなさい」と教えるそうですが、これは「脱中心化」のことを言っていると考えられます。
 「脱中心化」によって不安うつあがり緊張と距離をとれるようになると、不安うつあがり緊張をどのように体験しているかという「体験様式」が変化していることになります。「体験様式」の変化の重要性については、以前から臨床動作法が効果をあげる原理について研究していた日本の臨床心理学者達によって指摘されてきました。

 マインドフルネス瞑想の習熟により「体験様式」が変化すると、不安うつあがり緊張だけでなく、手のふるえ吃音の改善にも効果があることが、来所してくださっている皆さんとの取り組みでわかってきています。


 ■参考にしていただきたいページ

認知行動療法   臨床動作法   スピリチュアル心理療法
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